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アイツと、読書と、音楽と

岡村ちゃんに長患い

祝・アルバム「幸福」発売記念、サブカルのすすめさん企画最終話

2013年のクリスマス、私の大好きなブログ「サブカルのすすめ」さんで岡村ちゃんと妄想デートという企画がありました。

その時に作ったお話がこちら。
 
その1年後、「彼氏になって優しくなって」のカップリング「ちぎれた夜」を聴いて書いた続きのお話がこちら。
 
そしてアルバムの発売が決まって、嬉しさのあまり書いた「幸福」がこちら。
 
さあ、いよいよ11年半ぶりのアルバムが発売となり、この二人にもまた変化が訪れました。お約束どおりアルバム発売してから続編を書く、ということで、なんとか書き終わることができました。
読んでいただけたら嬉しいです。
 
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カレンダーにしるしをつけたことなんか、子供の時以来だ。
昨年の新聞広告を見て、慌てて来年のカレンダーを買い、壁に貼る。
1月27日に丸印をつけ、幸福と小さく書き添える。
 
アイツに久しぶりに会ったのは、松の内も過ぎた頃。ひょっこり夜中に部屋を訪ねてきた。
「これから初詣に行きませんか?」
どうやら近所の小さな神社に一緒に初詣に行けたらいいね、と去年散歩しながら話をしたのを憶えてくれていたようだ。
「今から初詣なんて、神様に笑われないかしら。」
そういうと
「案外神様は寛大なんですよ、そういうところ。」
とアイツは真面目な顔をして答えた。
急いで支度をして、歩いて5分の神社にむかった。
私が熱心に手を合わせていると、不思議そうに
「何をそんなにお祈りしているの?」
とアイツが聞いてくる。
「言ったら叶わなくなっちゃうから、秘密よ。」
私がそう言うと、彼は自分でも真剣な顔をして手を合わせた。
何を祈っているの?そう聞くことができたらどんなに楽だろう、横顔を見ながらそう思っていると、それをまるで知っているかのように、アイツは微笑ながら
「秘密よ!」とおどけてみせた。
 
その日、カレンダーに印のついたその日は、朝から何も手につかなかった。仕事も休みだというのに、朝の5時から目が覚めてしまい、そこからいったい自分が何をしていたのかもあまり憶えてはいない。
とにかく朝の早い時間に玄関のチャイムが鳴った瞬間、私が勢いよくドアを開けて、アイツにぶつかりそうになったことだけは憶えている。
「約束どおり、一番に持ってきましたよ。」
彼が差し出した茶色い封筒、そして封筒の下に「Y.O」と書かれた文字を見た瞬間、私は全てを思い出した。
「まさか、あなたがあの時のお兄ちゃん?」
 
それはまだ私が幼稚園に通う前の話。
実家の敷地には小さなアパートが建っていた。祖父と祖母が建てたほんとうに小さな、アパートと言うより下宿屋といった感じの建物だった。
当時私は庭で花の手入れをする祖父母にくっついて、隣で泥遊びをしていると、アパートの一室からギターの音が聴こえてきた。
テレビやレコードから聴こえてくる音とは違い、生で聴くギターの音はとても魅力的だった。
特に夏場などは、部屋にクーラーなどない時代だったので、その部屋の住人はドアを少し開けてギターを弾いていた。私はこっそり覗いては隠れ、覗いては隠れ、を繰りかえしていた。
 
もちろん、そんな子供のすることを、その住人が気づかないわけもなく、私がドアのそばにいる時には童謡などをギターを弾きながら歌ってくれていた。しかし歌詞がいつもあやふやらしく
「なんとーかなんとーかーなんとーかーだー」
とあからさまに誤魔化して歌うので、ある日、意を決した私は
「違うよ!そのお歌は、こう歌うんだよ!」
と扉を開けて歌ってみせた。
「お、仔猫ちゃん、歌がうまいねー。才能あるじゃん!」
そう、その頃の私はまるで仔猫のように転がりまわって遊んでいたので、祖父母が「うちのかわいい仔猫はどこに行ったー?」などとふざけて私を呼んでいたのを、お兄ちゃんは聞いていたのだ。
扉のむこうにいたお兄ちゃんは、そのギターの音と同じくらいかっこよかった。
私はとても恥ずかしくなって、祖父のところまで駆けていき、その大きな背中に隠れた。
そんなことを何度も繰り返していた。はっきりと顔を見るのも恥ずかしいのに、どうしてもそのギターの音が聞きたくて、お兄ちゃんのそばにいたくて。今思えばあれが私の初恋だった。
 
そのお兄ちゃんは一年ほどアパートに住んでいた。
ある日、私が庭で遊んでいると、紫のコートを羽織り、ギターケースを抱えたお兄ちゃんが私のそばにきた。
「仔猫ちゃん、今日でお別れだよ」
「なんで?嫌だよー!」
わけもわからず駄々をこねる私に、お兄ちゃんはひとつの茶封筒をくれた。
「これはね、僕のギターの音が入っているカセットテープだよ。僕は東京で有名になるからね、その時まで大事に持っていてくれるって約束してくれる?」
「嫌だ!私はゆれるお年頃なんだから。だめー。いなくなっちゃだめー。」
と、テレビドラマで憶えたお気に入りの言葉を使って、精一杯泣きながらお兄ちゃんをひきとめた。
「揺れるお年頃かぁー。かわいいなぁ。じゃあ約束だ。僕が有名になったら、『揺れるお年頃』ってお歌を作るから、僕を見つけるんだよ。いいね?」
そういって彼は、私の祖父母や両親に挨拶をしてアパートから出ていった。
 
泣き止まない私に、両親はお兄ちゃんが残してくれた紫色のカセットテープを聞かせてくれた。
それはいつも聞いていたあのギターの音がした。そして歌詞があやふやなままの「赤とんぼ」も入っていた。
私は毎日毎日そのテープを聞いては、茶封筒にしまい、を繰り返していた。
 
 
「ちょっと待って!」
私は慌てて天袋から箱を出し、ふたを開けた。そこには「Y.O」と書かれたボロボロになった茶封筒が入っている。
「あ、懐かしいなぁ。持っていてくれたんですね。」
「あなたはいつから気が付いていたの?」
「あなたの実家に行った時からですよ、ほら花のアルバムを持って。」
そうか、あの時、父や母がすんなり彼を家に招き入れたことにも気づかないくらい、私、彼が来てくれたことに驚いていたんだ。
「今日は約束を守るために来たんです。開けてみて!」
アイツが持ってきた茶封筒を開けると、そこには小さいけれど持ち重りのするBOXが入っていた。
私は立ったまま、急いてBOXのフィルムを剥がした。そしてその中に入っているCDを見る。
4曲目「揺れるお年頃」。
「キミに一番に見せたくて、今日までファンのみなさんにも曲目は秘密だったんですよ。」
うちにレコードしかないことを知っている彼は、携帯プレイヤーを持ってきて、
「聴いてみて!」
と言った。それから私は一曲目から順番にアルバム「幸福」の曲を聴いた。
「あ、猫のあくびって?」
「よく仔猫ちゃんは、僕の部屋の前で大きなあくびをしていたでしょ。」
ギターの音があまりに心地よく、私は扉に寄りかかっては、何度も何度もあくびをして居眠りしそうになっていたんだっけ。そんなことまで憶えていてくれたんだ。
CDを聞き終え、写真集を見て、そしてDVDも見終わろうとした、その時
「ゆうやーけこやけーの赤とーんーぼー」
画面の中のアイツがギターを弾きながら歌っている。なんとーかなんとーかー…。
「あなた、まだ歌詞があやふやなんじゃない。」
笑ったつもりが、大泣きしていた。まるであの時お兄ちゃんがアパートを去った時のように、私はあの頃の自分に戻って大泣きした。
 
「さあ、神社にもう一度行きましょう。」
アイツがそう言った。
「願いが叶ったら、神様にお礼を言いに行くんですよね?」
「うん。私もお礼を言わなくちゃ。」
そう。私は一度に二つのお願いが叶ってしまったんだから。
無事にアルバムが出ますように。
そしてもう一つ、あのギターのお兄ちゃんにまた会えますように。
「あ、あなたのお願いは何だったの?」
「秘密です!でも願い事はこれで最後にするんです。一番大事な願いは、自分で叶えるよう努力します。」
そう笑顔でこたえるアイツの顔を見て、私は神社でこう願った。
「寛大な神様、もう一つだけお願いしてもいいですか?
 この人の「幸福」がずっとずっと続きますように。そしてその「幸福」をずっとずっと側で見ていられますように」と。
 
 
いかがでしたでしょうか。
この二人のお話は、これで最終回です。
どんな「幸福」な物語が続いていくのかは、あとはみなさんの心の中で育ててあげてください。
長い長いお話にお付き合いいただき、ありがとうございました。