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アイツと、読書と、音楽と

岡村ちゃんに長患い

「幸福」


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2013年のクリスマス、私の大好きなブログ「サブカルのすすめ」さんで岡村ちゃんと妄想デートという企画がありました。 その時に作ったお話がこちら。

「サブカルのすすめ」さん企画!岡村ちゃんと妄想peach Xmas - アイツと、読書と、音楽と

その1年後、「彼氏になって優しくなって」のカップリング「ちぎれた夜」を聴いて書いた続きのお話がこちら。

「ちぎれた夜」 - アイツと、読書と、音楽と

この時、私は最後の文章をこのように締めました。

花を買いに来てくれる、ただそれだけでいいのかもしれない。アルバムに花の写真が増えていく、そのことを大切に今は毎日を過ごしていこう。

私にとって、このアルバムに貼られていく花の一つ一つはシングル曲でした。 その一つ一つが増えていくということでアルバムに近づいていっている。 そんな勝手な私の暑苦しい気持ちもここに込めて書いたのです。てへ。

さあ、この二人のおつきあいも3年目となりました。 アルバム発売決定記念といたしまして、またこの二人にご登場いただこうと思います。 お時間のある時にお読みいただければ幸いです。

アイツとのつきあいも、もう3年になる。 変わったことと言えば、私の部屋に歯ブラシが一つ増えたことと、同じ柄のTシャツがたくさん増えたこと、そして大量のレコードが持ち込まれたことくらい。これでも後輩にだいぶプレゼントしたんですよ、といいながら、驚くような枚数のレコードを抱えてきた彼は、ちょっと照れたような、誇らしいような顔をして笑っていた。

「こんなにたくさんのレコードがあるんじゃ、1階に引っ越した方がいいかもね。底が抜けちゃうわ。」

と笑う私の冗談を真剣に受け止めた彼は、あっという間に不動産屋さんに連絡をして近くのマンションの1階を借りてきた。

「花を植えたら素敵じゃないかしら?」

そう言いながら、ちょっと自慢げにカーテンを開けて見せてくれたそこには、小さなかわいらしい庭があった。 毎日家には寝に帰るだけの生活を続けて10年以上経つ。

「庭のある暮らしというものも選択できたのね。全然私そんな選択肢があることさえ忘れていたわ」

そう言うと、

「僕だってそんな選択肢があるなんて思ってみたこともありませんでしたよ。あなたのおかげです」

とアイツはにっこりと微笑んだ。

「なんの花を植えるか決めなくちゃね」

生活の中の変わらないことを挙げた方が断然多い。私はまだ花屋で働いているし、彼は音楽の仕事を続けている。 そんな変わらない関係性が私には心地よかった。 そう、私は幸せだった。

花屋からの帰り道、立ち寄った本屋にその本はあった。 最初はピンクのかわいらしい装丁に目がいった。

岡村靖幸 結婚への道」

本を手に取ろうかどうしようか迷っていると、次々と

「あった!サイン本ここにあった!やったー。3軒目にして買えたよー」

と女の子たちが嬉しそうにアイツの名前の横にハートのマークが描かれた本を買っていく。

私はサイン本ではないものを選び、レジに持っていった。そして夕飯も食べずに近くのコーヒーショップで閉店近くまでかかってその本を読んだ。

その中で、彼はまだ「出逢っていない」運命の人のことを語っていた。 読んでいくにつれ、私の胸は少しずつ痛みが増していった。 その時初めて、自分がアイツの運命の人なのかもしれない、なんてほんの少しでも思っていたことに驚き、恥ずかしさでいっぱいになった。

「スーパースターだもんね、あなたは」

本を閉じ、そのままコーヒーショップのテーブルの上に置いて、私は外へ出た。 いつの間にか、風が冷たく感じる季節になっていたんだね。そんなことにも私気づいていなかったんだ。 こんな日に限って月の光はまぶしくて、私の涙を隠してさえくれない。

「ちょっといそがしくなります。」

彼はそんな簡単なメールを寄越して、家に来なくなった。 私の生活は、またいつもと変わらない単調なものとなった。花屋で花を売る。ただそれだけ。外の景色を楽しむ時間すら 忘れてしまっていた。

久しぶりのお休みの日、お天気もいいし、部屋の掃除でもはりきってやるか。アイツのものなんか捨てちゃおうかな。 ちょっとそんないじわるなことも考えつつ、勢いよくカーテンを開けるとそこには植えたはずもない花がたくさん咲いていた。

カランコエだった。ピンクや黄色い小さな花が一斉に咲いていた。 よくみると、花の横に小さな木の箱が置いてある。中から手紙が出てきた。

「この花が咲くころ、あなたに贈りたいものがあります。11月15日の朝刊を見てください」

そう書いてあった。 やだ、今日じゃない! 慌てて新聞受けから新聞を取り出し、小さな記事を次から次へと見ていった。私やアイツに関係しているような記事は 一つもない。

いったい何が載っているのよ。そう思って新聞をめくった瞬間、私は息が止まった。 そこに飛び込んできたのは、カラーの全面広告。岡村靖幸ニューアルバムの発売予告だった。 仕事中は絶対にしないと決めていた電話。でも、今日だけは許して、と思いながらアイツに電話をかけた。

「もしもし」

その声を聴いたとたん、私は何もしゃべれなくなった。

「あ、新聞見てくれたんですね。ってことは、あの箱にも気づいてくれましたか?」

うんうん、としか言わない私にアイツは

「あなたの本もちょっとお借りしました。箱の中に一緒に入っていますから。  実物が出来たら一番に持っていきます。まだレコーディングの最中なので。」

そう言って電話を切った。 本?もう一度箱の中を見てみると、そこには私がボロボロになるまで読んだ「花言葉辞典」が入っていた。 花を買いにくる人は、贈り物としての花を買っていく。その時に、花言葉を一言添えてあげるとお客さまにとても喜ばれるのよ、そういって私が彼に見せた本だ。

カランコエのページには、付箋が貼ってあった。

花言葉は「たくさんの小さな想い出」「ときめき」「幸福を告げる」そして「あなたを守る」。

幸福の文字には大きな丸がついていた。 あ、アルバムのタイトル…。

慌ててもう一度新聞を見た。大きな文字で「幸福」と書いてあった。