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岡村ちゃんに長患い

岡村靖幸「家庭教師」

祝!再販記念、勝手にライナーノーツ!
もう、こんな大変な作業は二度とやらねぇ。
ライナーノーツ書ける人って、ほんとスゴイと思う。

家庭教師

家庭教師

その日、ある一枚のアルバムが発売されたことで、日本の音楽業界が大きく揺れた。


山は高いほど、谷は深いほど、人はその見えないゴールに向かって近づこうとする。おそらく音楽だってそうだろう。ビートルズの曲がこれほどカバーされるのも、クラプトンのギターテクニックが、生きながら既に伝説となっているのも、全てそれを目指すものが一歩でも高みに近づこうとする努力の結果である。
若者は常に、神に近づくため、汗を流す。


アルバム「家庭教師」は、しかしながら他の追随を決して許してはくれなかった。作詞、作曲、編曲、そして演奏をすべて自分でこなしてしまったその作品は、あまりにも「出来過ぎ」ていた。
作り込まれ、全ての部分において必要不可欠である音符の一つ一つ、青春という傷を覆う薄皮を剥がすような局所にたいして百発百中の歌詞、そしてそれを歌う岡村靖幸のボーカルの鮮烈さ。
すべてのバランス感覚が完璧であり、もはや誰も手のつけられないモンスターアルバムが誕生してしまったのである。


当時、これを聞いた誰もが、親には秘密にしたいアルバム、心のベストテンダントツ第一位としたことであろう。そしてそれは
口コミで確実に広がることとなる。
「すごいアルバムが出たんだよ。週末俺んちに聞きにこない?」


岡村靖幸の、26歳とは思えない熟された表現力に畏怖の念と憧れを抱いた数々のミュージシャンにとってこのアルバムは、超えてみたい目標であり、決して超えられない壁となる。


愛と青春をこれほどまでにストレートに表現した日本人アーティストはそれまで存在しなかった。喘ぎ、語りで、ある年齢層の男子女子の生理的深層部分に入り込み、それが20年経った今も、青春の欠片と同じ場所、心の少し深い引出し部分にしまいこまれ、ことある毎にひっそりと取り出され、愛でるように味わう。そんな風に大切にこのアルバムを聴き続けた人は少なくないはず。


「yellow」「DATE」「靖幸」と、J―POPとは一線を画すアルバムをコンスタントに発表し、ベストアルバム「早熟」(これほど当時の彼を端的にあらわす言葉は、他には見つからないだろう)により、J―POPの範疇を完全にはみ出した。
この「家庭教師」こそが、岡村靖幸による「日本語ファンク」の確立なのである。このアルバムが2012年、再び若者達の心を
鷲掴みにすることを切に願う。


1.「どぉなっちゃってんだよ」
「靖幸」を作った時点で、「次に作るものはどんなふうになるのだろう?とんでもないものになるんじゃないか?と思ったんで、その前にポピュラリティのあるものを出そうとしたわけです。で、「家庭教師」ができたと。」
と、こう岡村本人が語っているわけだが、ポピュラリティがありつつ、とんでもないものが一曲目から登場。
テンションの高いイントロ部分ですでに心を持っていかれる。
出だしのエレキが心をざわつかせ、
「どぉなっちゃんてんだよ 人生がんばってんだよ
一生懸命って素敵そうじゃん」
この歌詞でもう夢中。PVのちょび髭靖幸のセクシーさがたまらない!


2.「カルアミルク
屈指の名曲バラード。多くのミュージシャンがカバーしたことでも知られる。ストレートな歌詞と、六本木という響きの良さが聞き心地の良さを増幅させる。男の子のせつない気持ちいっぱいのセンシティブな一曲。


3.「(E)na」
音の数自体の多さ、複雑さ、それをまったく感じさせない軽めのボーカルの楽しさ。
「でもほんとに大事なキスなら靖幸しか販売してない」とコンサートで歌われ、女性の失神率高し。


4.「家庭教師」
タイトルチューン「家庭教師」。
この異色さ加減といったら、初めて聞いた時には、何かの間違いではないかと思ったほど。すでにイントロのアコースティックギターがエロティックであることに驚き
曲の半分弱が語りと喘ぎで占められていることに、さらに驚く。
具体的にエロティックな歌詞を歌っているわけではないのに、どうしてここまでセクシーに仕上げられるのか、とにかく人生最大の衝撃曲と感じた人は私だけではないはず。
妄想が妄想をよぶ、R15指定曲!


5.「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」
一転して、爽やかでしょっぱい汗と涙が飛び散るようなキャッチーな曲。イントロのギター部分から、心がときめく。
「寂しくて悲しくてつらいことばかりならば
あきらめてかまわない
だいじなことはそんなじゃない」
岡村作品の中で、もっともよく引用されるフレーズがここにある。諦めを可とし、その先の一歩を後ろから後押ししてくれる、まさに青春をきらめかせてくれた作品。
とにもかくにも、青春ど真ん中!


6.「祈りの季節」
「性生活は満足そうだが…」
未だかつて、こんな歌い出しの曲があっただろうか。
岡村が憂うのは、高齢化そして少子化
ムーディーなサックスの音にのり、この粘度が聞けば聞くほど癖になる。コンサートでのアップテンポアレンジも絶品なので、
是非聴き比べていただきたい。


7.「ビスケットLove」
岡村作品になくてはならない子供の声のコーラス。
淫靡なこの作品にもそのコーラスは効果的に使われている。
後半部分の曲にのせた語りで淫靡度は絶頂に達し
「今日、学校どうだった?」
という驚くべき問いかけで終わる。気怠さと対照的な子供の無邪気な声がまさに絶妙のコントラストを醸し出す。


8.「ステップup↑」
このイントロが流れると、身体中の血液が一気に倍速で流れ出す。
アルバム中、もっともダンサブルな一曲。
「ステップアップするため倫社と現国学びたい」
なんという歌詞だろうと不思議に思う間もなくリズムに引きずり込まれること間違いなし。
コンサートでこのイントロが流れると、盛り上がりは最高潮に達する。


9.「ペンション」
このアルバムの肝。
ロディアスなピアノバラード。
(いや、正確にはキーボードです。ごめん。あやまる。
しかしどうしてもイメージが…。)
「君のために歌のひとつでも作ってみたい」
この曲がラストだからこそ、「家庭教師」というアルバムが何倍にも魅力的で、守ってあげたくなるほど繊細でナイーブなものであることに気づかされる。
アルバムの構成力を心の底から感じ取れる最終曲。